Spotify モデルを理解する

人気のある音楽テクノロジー企業は、アジャイルのスケーリングに関して何を私たちに教えてくれるのでしょうか

Mark Cruth 作成者 Mark Cruth

Spotify は、世界で最大かつ最も人気のあるオーディ オストリーミング サブスクリプション サービスであり、推定ユーザー数は 2 億 8600 万人です。Spotify の成功は主に、作業を整理してチームのアジリティを高めるという同社独自のアプローチによるものです。Spotify のエンジニアリング チームがアジリティの向上を目指して作業を進める際、自らの経験を文書化して、世界に公開し、最終的に多くのテクノロジー企業が作業を整理する方法に影響を与えることになりました。これは現在では Spotify モデルとして知られています。

Spotify モデルとは

Spotify モデルは、文化とネットワークの重要性を強調する、アジャイルをスケーリングするための人間主導の自律的なアプローチです。このモデルは Spotify やその他の企業が、自律性、コミュニケーション、説明責任、品質に重点を置くことで、イノベーションと生産性を向上させる際に役立っています。

Spotify のコーチ Henrik Kniberg 氏が指摘したように、Spotify モデルは技術的および文化的な観点からのスケーリングに関する Spotify の見解を表しているものであり、フレームワークではありません。これは、製品開発を行う組織で複数のチームをまとめる 1 つの例であり、文化とネットワークの必要性を強調しています。

…Spotify モデルは、アジリティを可能にするためにどのように組織を構築するかということに重点を置いています。

Spotify モデルが最初に世界に紹介されたのは 2012 年で、Henrik Kniberg 氏と Anders Ivarsson 氏がホワイトペーパー『 Scaling Agile @ Spotify 』を公開しました。このホワイトペーパーでは、Spotify がアジリティに取り組んだ徹底的にシンプルな方法が紹介されています。それ以来、Spotify モデルは多くの話題を生み出し、アジャイル変革の分野で人気を博しました。その魅力の一端は、特定の一連のプラクティスに従うのではなく、作業を中心に整理することに重点を置いていることです。従来のスケーリングのフレームワークでは、特定のプラクティス (たとえば、デイリー スタンドアップ) がフレームワークの実行方法でしたが、Spotify モデルでは、企業はアジリティを可能にするためにどのように組織を構成すればよいのかに重点を置いています。

Spotify モデルはチームの自律性を第一としているため、各チームまたは分隊 (Squad) が自らのフレームワーク(スクラムカンバン、スクラムバンなど) を選択します。分隊は、人々の整合性を保ち、知識を相互に活用できるように部隊 (Tribe) とギルドに編成されます。

それでは、これらの用語のいくつかをわかりやすく説明しましょう。

Spotify モデルの重要な要素

Spotify モデルの中心ははシンプルさです。Spotify は作業の整理を始めたとき、人とチームをどのように構成すべきかについて、いくつかの重要な要素を明確にしました。

分隊

スクラム チームに似ている分隊は、1 つの機能領域に注力する、部門の枠を超えた (通常は 6 - 12 人からなる) 自律的なチームです。各分隊には、彼らが行う作業を導く独自のミッションがあり、サポートのためのアジャイル コーチ、および指導のためのプロダクト所有者がいます。分隊は、どのアジャイル手法/フレームワークを採用するかを決定します。

部隊

複数の分隊が同じ機能分野で互いに調整し合う場合に、部隊を作ります。部隊は、分隊全体の統括に役立ち、通常、統括を維持するために 40 - 150 人で構成されます (ダンバー数と呼ばれるものを活用します)。各部隊には部隊リーダーがいて、分隊間の調整とコラボレーションの奨励に責任を負います。

チャプター

分隊が自律的なものであっても、スペシャリスト (たとえば、Java スクリプト開発者や DBA) がベスト プラクティスに沿うことは重要なことです。チャプターは、各スペシャリストが持つファミリーであり、分野全体でエンジニアリング標準を維持するのに役立ちます。チャプターを率いるのは通常、そのチャプターのチーム メンバーのマネージャーでもあるシニア テクノロジー リーダーです。

ギルド

あるトピックに情熱を注ぐチーム メンバーは、本質的に関心を持つ者の集まりであるギルドを作ることができます。ギルドにはだれでも参加でき、参加は完全に任意です。チャプターは部隊に属しますが、ギルドは異なる部隊にまたがることができます。ギルドには正式なリーダーはいませんが、ギルド コーディネーターの役割に手を挙げ、参加者をまとめる支援をするメンバーがいます。

トリオ

トリオ (別名 TPD トリオ) は、部隊リーダー、プロダクト リーダー、設計リーダーを組み合わせたものです。各部隊にはトリオがあり、機能領域で作業するときにこれら 3 つの視点が常に一致するようにしています。

アライアンス

組織が拡大してゆくと、目標を達成するには複数の部隊の緊密な協力が必要になる場合があります。アライアンスは、部隊のトリオ (通常は 3 つ以上) の組み合わせであり、単独の部隊よりも大きな目標のために部隊のコラボレーションを支援します。

Spotify モデルのイメージ

これだけです。従う必要のあるプラクティスや実施する必要のあるセレモニーはそれほど多くありません。分隊にはスプリント計画やふりかえりなどのセレモニーがあるかもしれませんが、Spotify モデルの重点はチームをいかに作業中心に編成するかです。作業を完了する最善の方法を見出すのは分隊の役割です。

Spotify モデルのメリット

Spotify がアジャイルのスケーリング方法を変更したとき、Spotify が求めていたのは、分隊が迅速に行動し、ソフトウェアを速やかにリリースし、すべてを最小限の負担とオーバーヘッドで実行できるようにしたいということでした。このモデルを採用したときに Spotify はこれらのメリットを実現し、さらに進化させました。Spotify モデルを実装する組織的なメリットは次のとおりです。

堅苦しさのないプロセスとセレモニー

Spotify モデルは、必ずしもプロセスやセレモニーではなく、作業を中心に整理することに重点を置いています。これにより組織は、分隊がどのように作業をするかに関して大きな柔軟性を得ることができます。分隊に作業の方法を変えるように要求する (「スクラムをしなければならない」) のではなく、分隊を互いに調整し、個々のチームの成果に向けて前進させることに重点を置きます。

より自己管理的で自律的

Spotify モデルは、人々が自分に合った方法で作業を完了できると信頼することにより、自律性と創造性を促します。ソフトウェアをリリースする必要がありますか?それを決めるのは分隊の役割です。方向性を変える必要がありますか?それを決めるのも分隊の役割です。Spotify モデルは、意思決定を分散し、その責任を分隊、部隊、チャプター、ギルドに移すことに重点を置いています。

「管理はコンプライアンスにつながり、自律性はエンゲージメントにつながります。」


- Dan Pink、『Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us』の著者

Spotify モデルは、実行中の作業全体の透明性を高め、高い信頼に基づく環境で問題を解決するための実験に基づくアプローチを発展させます。これらすべてが、より優れた製品、より満足度の高い顧客、より熱心な従業員などにつながる可能性があります。ただし、すべての人がこれらの結果を経験するわけではありません。

Spotify モデルの課題

Spotify モデルは 1 つの組織の働き方を基本とします。多くの組織は Spotify モデルの同じメリットを享受したいと考え、Spotify が行ったことを真似ようとします。他の組織よりも多くの成功を収めた組織もありましたが、Spotify と同等の成功を収めた組織はないようです。その理由を考える場合、あらゆる働き方と同様に、現時点での組織の文化と構造を考慮に入れる必要があります。モデルはシンプルですが、実装される環境は複雑だということです。

賢明な幹部は、直面する状況の複雑さに合わせて手段を調整します。

- Dave Snowden 氏、マネジメント コンサルタント

残念ながら、多くの組織が Spotify モデルをコピーしようとします。一部の人には、部門横断的にチーム (分隊) と協力し、人々が機能領域 (チャプター) に報告するシンプルなマトリックス型組織構造のように見えるかもしれません。しかし、Spotify モデルはもっと複雑です。マトリックス型組織のように見えるかもしれませんが、構造に成長の余地を持たせるためには、信頼や自律性などといったモデルの主要な文化的要素がなければなりません。組織がその行動 (そして最終的にはその文化) を変えなければ、Spotify モデルのメリットは決して実現しません。単にチームを分隊と呼び変えるだけでは、うわべだけを綺麗に飾り立てているだけです。

Spotify モデルのベスト プラクティス

信頼、自律、迅速に学習できる文化を実現しようとしているのであれば、Spotify モデルからインスピレーションを得ることができるでしょう。大規模アジャイルへのアプローチに役立つ手段として Spotify モデルを検討している場合、以下のベスト プラクティスの一覧を念頭にお置くようにしましょう。

モデルをコピーしない

Spotify のアプローチの背景にある構造、プラクティス、考え方を理解しようと努める必要があります。その理解に基づき、独自の環境に適合させるために、モデルのいくつかの側面を微調整します。ゴールは Spotify になることではなく、組織における連携方法を改善するために Spotify のモデルを活用することです。

自立性と信頼が鍵

Spotify は、迅速に方向転換できるように、可能な限り多くの自律性を自らのメンバーに与えました。チームが独自の開発ツールを選択し、別のチームのコードを変更できるようにすることは、ほんの一例です。組織内で、日常業務から切り離されている組織の一部によって強制されるのではなく、チームに与えることができる決定事項があるかどうかを判断します。

コミュニティとの透明性

Spotify の成功は、コミュニティの構築と作業の透明性に重点を置いたことによるものです。Spotify モデルの導入にあたって最初のギルドを作り、組織内の全員の参加を促します。フィードバックを収集するための透明性が高く、包括的な方法を作成することで信頼を築き、組織が将来どのような働き方をしたいかについての調整を行います。

失敗を奨励する

モデルを活用する過程で失敗を犯し、つまずくでしょう。でも、それで良いのです。成功と失敗の両面での実験と学習が改善をもたらします。Spotify は、今日有名になっているモデルに到達する前に何度もイテレーションを行い、それ以降も自らの働き方を改善するための新しい方法を絶えず模索する実験を続けてきました。あなたの組織内でも同じことを奨励してしましょう!

これらのプラクティスに集中すれば、Spotify モデルをガイドとして使用するかどうかに関係なく、組織内のコラボレーションと調整の方法に良い影響が得られるはずです。

結論

Spotify モデルからは、自律性と目的を持って迅速に行動することに重点を置いた組織を構築しようとしている場合に、優れたインスピレーションが得られます。Scrum@Scale などのより改まったスケーリング フレームワークでも、このモデルからインスピレーションを得ています (その逆もあります)。重要なのは、Spotify モデルは目的地ではないと覚えておくことです。皮肉なことに、Spotify は Spotify モデルのオリジナルの実装をもう利用しなくなりました。彼らは、変化する組織に合うようにモデルを進化させ、適応させました。組織が大きくなるにつれて直面した新しい問題を解決するために取り入れたトリオとアライアンスは、実際のところ Spotify にとって新しい要素です。Spotify モデルの主要な要素から始めることで着手はできますが、真のアジリティは、自らの組織の状況に合わせてモデルを進化させることによって実現できるのです。

次のステップ

Spotify モデルについてもっと知りたい場合は、Spotify のエンジニアリング文化について Spotify Labs に投稿された 2 部構成のビデオをご覧ください (パート Iパート II)。アジャイル コーチの大規模アジャイル ページにアクセスして、Spotify モデルを他のスケーリング フレームワークとどのように比較できるかを学ぶこともできます。

組織内で Spotify モデルの実装を検討している場合は、信頼と自律の文化を生み出して維持するために、フィードバックの仕組みと透明性を確保することが重要です。Atlassian の Jira Align を活用することで、組織は分隊を部隊に編成し、ギルドとチャプターを作り、製品に関して透明性の高い意思決定を組織全体で行うことができます。