プロダクトマネジメントが今、なぜここまで求められるのか?改めて定義・考察してみた。

「プロダクト」は製品のみ?広義の事業まで含む?

昨今のニュース記事を見ていると、DXが進むなどにより、今まで以上に多様な業種で各企業様の関心が高まっているのか、プロダクトマネジメントに関する話題がここ増えてきていると感じます。そもそもプロダクトマネジメントという役割は数十年の歴史がありますが、この「プロダクト」という言葉、単純に日本語化しづらい、という特徴があります。

「プロダクト」は、直訳すると「製品」です。じゃあ、自社製品一つ一つのみが本当にここでいう「プロダクト」の意図を余すこと無く汲み取っているか?そうとも言い切れないケースも文脈も有りえます。この点について考えを進めるのに最適な記事として、翔泳社から出版されている書籍で論じている内容を抜粋します。

そもそもプロダクトとは何か。本書では、プロダクトを「市場において顧客となりうる個人や団体に価値を提案するもの」と定義する。

つまり、特にIT業界ではハードウェア→ソフトウェア→サービスと提供形態が歴史とともに多様化してきた結果、「プロダクト」という言葉が指す対象が広く定義されるようになってきた、という指摘です。

近年、プロダクトは事業であるともいわれるようになった。従来は、事業の中にプロダクトをつくる開発部署をもつことが一般的だったが、ITが事業の中心で活用されるにつれて事業とプロダクトの垣根が曖昧となってきた。

 一般的にプロダクトといったときに、成果物単体を指している狭義の意味で使われていることもあれば、アウトプットとそれに付随する広義の活動すべてを指していることもあるため、どちらの意味を指しているかは注意してコミュニケーションを取るようにしてほしい。本書で取り扱うプロダクトは広義のプロダクトである。つまり、プロダクトマネージャーは事業(≒プロダクト)の成功に責任をもたなければならないことになる。

当然すべての場合においてプロダクトを事業と同義として捉える必要はありませんが、「製品そのもの」以外の定義もありうる、と把握しておくのはデジタル化が加速する現代において非常に重要といえるのではないでしょうか。

そしてさらに重要なのは、これを「ああ、IT・ソフトウェアの世界はそうなのね。」と、自社の業種がITではないから他人事、と片付けるわけには行かない点です。なぜなら、ここ数年で様々な記事や基調講演で取り上げられている「すべての会社は、テックカンパニーになるだろう」という言葉が示す通り、もはやITは自社には関係ない、と言える業種など存在しないからです。

もちろん、何でもかんでも全ての業種がIT業界に合わせる必要もありません。しかし、事業そのものに直結する自社の広義のプロダクトというものは、どんな業界にも適用できる状況になってきているのではないでしょうか。

例えば、ものづくり大国・日本最大の業種である製造業。今まで以上に、ハードウェアとソフトウェアを統合したシステム連携や、IoTのようなソフトウェア・サービス全て包含して提供する事で一段と価値を発揮するものもあります。

また、金融業界では金融サービスのウェブ化・オープン化により、従来の金融サービスだけでなく利用者、加入者のデータを活用した新事業創出へ注目が集まっています。事実、シンガポールの大手銀行DBSは自社を指して「たまたま金融業のライセンスを持っているだけのテックカンパニーである」と表現しています。

だとすれば、このソフトウェア開発、そして、その事業と近しい意味を持つプロダクトマネジメントという組織の機能も、もはや「IT業界だけの特有の話」とも言い切れず、全ての業種で必要に応じて取り入れていくべきなのかも知れません。

なお、アトラシアンでもプロダクトマネジメントという役割の解説と考察をグローバルに公開していますが、ここでも同様にその仕事の本質は製品責任者、つまり製品要求仕様書(Product Requirements Document)の作成・更新に始まり、製品ロードマップ、市場調査などの業務と定義しています。しかし、やはりこの記事を執筆した弊社Distinguished Product ManagerであるSherif Mansourも動画の中で「(極めて多岐にわたる業務範囲で)厳密に明確な定義は無い」ともコメントしています。

グローバルなプロダクトマネージャーの現状

では、そんなプロダクトマネジメントを担当する、プロダクトマネージャーはどんな状況に今置かれているのか。幾つか興味深いデータがあります。2020 Product Management Insight Reportによると53%のプロダクトマネージャーがプロダクトロードマップ作成に十分な時間を費やせない、またA comprehensive overview of software product management challengesの調査では56%が要件の調整ごとに時間と労力を使い過ぎている結果、顧客課題の整理や戦略策定に十分な時間を割けていない、と回答しています。

また、弊社の顧客インタビューでも、各国のユーザーからは以下のような声が聞かれました。

「表計算ソフトやプレゼンテーションソフトを組み合わせて情報収集や資料作成に悪戦苦闘している」

「他社製のロードマップツールを使っているにもかかわらず、結局社内の調整や情報展開に表計算ソフトのチャートやプレゼン資料を使って、主要な関係者が全員簡単に閲覧・入力できる状況を頑張って作り出していた」

これらを総括して、先日の弊社イベントの基調講演でも、現在のプロダクトマネージャーの置かれた状況を「極めてカオスな状態」と表現しています。なるほど、世界的に見て、プロダクトマネージャーは業務範囲の広さ、様々な関連部門間の連絡や意思決定に向けての調整ごとで煩雑な業務環境になりやすいもの、と見受けられているようです。

日本のプロダクトマネージャーのリアル

それでは一方、日本でこの「プロダクトマネージャー」という職種は現在どのような状態にあるのか。それを推し測るために2つほど日本での動きをご紹介します。

一点目は、2021年1月、日本で設立された「一般社団法人 日本CPO協会(JCPOA)」の設立趣旨は非常に示唆に富むものです。

ソフトウェア業界で世界最大のシェアを誇るアメリカでは、CPOやVPoPといったプロダクトに対して責任を持つ人材が組織に存在し、中期的な目線でプロダクトの設計を行っています。一方、日本のエンジニア業界はこれまでSIerによる受託開発が中心だったこともあり、自社でプロダクトを開発する文化が海外に比べ浸透しておらず、プロダクトそのものに責任を持つ人材の必要性が語られてきませんでした。また、プロダクト開発に関する海外の最新の情報に触れる機会がほとんどなく、刺激を受けにくい環境にあります。それらの結果、日本では、そのようなプロダクトづくりに関するノウハウや知見をもった人材が不足しています。
 世の中のデジタル化にともない、ソフトウェアプロダクトへのニーズが高まっている中、日本国内からそのニーズに応えるプロダクトを提供するためには、海外の知見を取り入れ、プロダクトづくりの知見を持った人材を育成することが急務だと考え、この度、CPO協会を設立しました。

つまり、日本でも進み始めているデジタル化の波の中で、自社でソフトウェア・プロダクトを開発するニーズが高まってくる。その中で必要な機能であり人材がプロダクトマネージャーという職種になります。

さらに、二点目として、日本国内のプロダクトマネージャーについて興味深い調査報告書が見つかりました。

日本で働くプロダクトマネージャー大規模調査レポート 2022 by pmconf」という一般社団法人プロダクトマネージャーカンファレンス実行委員会により集計されたレポートです。677件の回答から、例えばその半数以上がプロジェクトマネージャーとエンジニアからキャリアアップしている実態や、6割近くが「職務内容にやりがいを感じる」といったデータも見て取れます。ただ、ここでは下記の抜粋内容に注目したいと思います。

「本来」時間を使いたい業務
「実際に」時間を使っている業務

興味深いのは、「実際にはデザイナー、エンジニア、ビジネスメンバーとのやりとりに最も時間を使っているが、理想としてはプロダクトのミッション、ビジョンの策定、戦略の立案、市場調査に時間を使いたい」というギャップが明確に回答内容に現れている点です。この理想と現実のギャップは前項のグローバルのプロダクトマネージャーが置かれた状況と共通項も見受けられるのが興味深い点です。しかし、だからと言って現状がベストとは言えず、やはり理想とのギャップは埋めたいものです。

実は日本でもみんな気づき始めている

上記の調査結果で理想としてもっと時間を使いたい、と日本のPM従事者の皆さんが挙げている業務。これらには、「顧客の課題を探究してソリューションを考え抜くこと」「仮説に対してユーザーの解像度を上げていく探索と、発見の繰り返し」と表現される、「プロダクトディスカバリー」という業務が含まれています。

つまり、現場で業務に従事している日本のPMの皆様は、この重要性を肌身をもって感じて、気づき始めているとも言えます。「『PMのセンス』や『思い込み』でプロダクトを創ることは、避けるべき」と指摘するこちらの記事では、要は担当者のセンスに頼った、属人的、再現性のない作業はリスクがある、と解説されています。言い換えると、ディスカバリーを進めるフェーズにおいては、ロジカルな考察と仮説検証の繰り返しで会社としてのプロセスを構築する必要がある、ということなんですよね。

また、その過程で上記の「現実」のところでも出てきた「効果的でオープンな議論・コミュニケーション」も必須になってきます。例として、Retty社で活用している「ディスカバリーの『型』」、英語で言うフレームワークのようなものを会社として定めて事業判断が偏らないようにする、なども必要かも知れません。

元Yahoo!Japanで現東京都副知事の宮坂さんも同じ視点でこの重要性を説いています。

また、「プロダクトマネジメントのすべて」の著者でお馴染みの及川さんもディスカバリーの重要性を投稿しています。

アトラシアンが今、プロダクトディスカバリー製品を提供する意味

もちろん、これらはまさしく「言うが易し」である点です。理想は誰もが理解しつつも、現実にすぐに落とし込み、実行するのは容易ではありません。

これらの問題に対するご提案として、プロダクトマネージャーを始めとする数多くのソフトウェア開発部隊に今までもご利用頂いているアトラシアン製品から、このプロダクトディスカバリーに特化した新製品「Jira Product Discovery」を発表いたしました。詳細は先日行われたAtlassian Presents: Unleashというイベントの動画やこちらの日本語ブログを御覧ください。この新製品を含めて、より多くのプロダクトのライフサイクル局面においてアトラシアンはさらなるご支援をプロダクトマネージャーの皆さまにご提供できるようになり、プロダクトディスカバリーのフェーズからデリバリー、運用までの幅広いフェーズを網羅できるようになりました!

世界と日本の製品開発・プロダクトマネージャーが抱える共通課題に対するアトラシアンの答え。もし、課題が共通であるとしたら、この製品を契機にグローバルに通用する製品開発の環境づくりが日本企業の中に芽生えるチャンスになるのでは、とも考えます。ぜひ、他のアトラシアン製品と組み合わせてご利用いただき、その効果を存分に活用いただきたいと思います!