仮想エージェント + 自動化でスケーラブルなサービスデスクを実現

アトラシアンの IT サービスデスクの進化から紐解く

Jira Service Management 仮想エージェント

アトラシアンの IT 部門が利用しているチケット管理システムは、Jira Service Management 上に構築されています。迅速にサービスデスクをセットアップでき、あらゆる規模の組織に対応する Jira Service Management は、直感的なインターフェイスを備えており、エージェント (対応者) は簡単にリクエストを管理するスレッドを作成し、コメントを追加したり、リクエストを提出した顧客とやり取りすることができます。アトラシアンのお客様の多くが、サービスデスクの中核に同製品を据えられています。

2022 年の Percept.AI の買収は、Jira Service Management の対話型サポート機能を強化しました。Percept.AI 社の仮想エージェント技術は、すでに対話体験の向上を目指して開発されており、この技術を Jira Service Management に統合することで、AI による優れた対話体験をポータルやチャット上で実現できるようになります。

この記事では、アトラシアンの IT 部門が Jira Service Management の仮想エージェント機能(現在ベータ版を準備中)を活用することで担当チームの作業時間を数百時間単位で削減した経緯をご紹介します。変革を推し進めている企業や規模を拡大中の企業にとって、これは強力なツールとなるはずです。

一歩先の IT サービスデスクへ

分散型チームで業務を進めるためには優れた IT サービスが必須であることから、アトラシアンではパンデミック発生時にサービスデスクを刷新 (英語) し、リモートで働く従業員のためにサービスの合理化と質の向上を図りました。この刷新は取り組みの始まりであったものの、その効果は絶大で、それまで異なるチャンネルで受け付ていたリクエストが、Jira のカスタマーポータルと接続された 1 つの Slack チャンネルに集約されました。

しかし、世界中に散らばったアトラシアンの従業員数は過去 2 年間で約 5,000 人から 10,000 人へと急拡大したため、リアルタイムでサポートを提供するには十分なサービスデスクの要員が揃っていませんでした。そこで、この成長を支えるために、費用対効果が高く、拡張性の高いソリューションが必要となり、サポート担当者が関与することなく、24 時間年中無休で情報を収集し、簡単なリクエストであればすぐに解決可能な AI が搭載された仮想エージェントを開発しました。

これは、アトラシアンが買収した Percept.AI と Halp の技術の融合により誕生したソリューションです。この技術によって実現された、AI を搭載した仮想エージェント機能は、従業員のサービスデスクへの問い合わせに、たとえその数が大幅に増えたとしても、より正確かつ迅速に対応できるよう設計されています。

サービスおよびヘルプデスク システムの自動化

アトラシアンが IT 関連のあらゆるリクエストを単一の Slack チャンネルに集約した背景には、IT サポートを計画するにあたっては、会社の成長が最優先であるべきだ、という考えがありました。

アトラシアンで IT サービスデスクを管理するチームのテクニカルプログラムマネージャーである Joe Flowers は次のように話します。「月に 10,000 件のサポートチケットを扱うサービスデスクを想像してください。そこにはハードウェアのリクエストから、ネットワークの不具合やアクセスに伴う問題、設定の変更など、あらゆる事柄に関するチケットがあります。この内の 10% 以上が、人の手を介さずに Slack に常駐する仮想エージェントによって解決されています。」

この機能はまだ始まったばかりであるものの、すでにアトラシアンの IT 部門全体の業務に大きなインパクトを与えています。情報の探索や繰り返し発生する問い合わせへの回答など、これまでサービスデスクの担当チームがチケットの対応に費やしていた時間のうち、500 時間(チームの 20 日間に相当)が最初の 1 か月で削減されました。

データによると、問題の解決や、人間のエージェントが必要とする追加情報の収集など、リクエストの 50% 以上に仮想エージェントのサポートが入っていました。さらに見てみると、全リクエストの 10% 以上が仮想エージェントによって解決され、人による回答が必要なチケットは 500 件も削減されました。

AI をプロセスに組み込むことで、日々繰り返し寄せられる質問は自動で回答されるため、サービスデスクの担当者は大きなメリットを実感できるはずです。

スケール可能な IT サービスデスクの構築

Jira Service Management の仮想エージェント機能は、あらかじめ設定されたデータ駆動型のインテントに基づいて従業員からのリクエストを自動的に解読し、チームが関連すると判断した特定のナレッジベースの記事を案内するように設計されています。Joe もまた「このバーチャルエージェントを使うと、顧客 (従業員) のリクエストを評価し、それがナレッジベースに既にあるトピックに関するものであれば、その記事を自動で Slack 経由で送信することができます」と説明します。

この仮想エージェントを利用した従業員は、5 点満点中平均 4.5 点という顧客満足評価をつけており、非常に有用であることが確認できます。そして、さらに強調すべきなのは、削減された時間です。

繰り返し寄せられる質問に答えたり、対応のために Zoom 会議に参加する時間が減るため、人間のエージェントは、より判断や戦略が必要とされる複雑なプロジェクトに集中できるようになります。ナレッジベースの記事だけでは不十分とされる複雑なチケットの場合、ボットが人的介入の必要性を認識し、キューを監視する実際のエージェントにシームレスに引き継ぐことができます。

「毎週繰り返し受けている質問は多いはずです。この AI が搭載された仮想エージェントは、重要ながらも単調な質問を 1 分以内に解決するのにとても役立ちます」と Joe は言います。理論上、このボットは「反復可能で文書化できるサポートの質問」とされる「レベル 1 」の質問に回答することができます。組織全体でこうした問い合せが多い場合、ぜひ参考になさってください。

自社だけではなくエンタープライズレベルのソリューションへ

既に多くの仮想エージェントのソリューションが市場にある中で、アトラシアンがこのソリューションを自社で開発した理由を最後にご紹介します。それは、アトラシアン製品を使用して自社の問題を解決することは、他の企業やチームにとってもメリットとなる、と考えているためです。

IT サービスデスクが抱える問題を解決したこのプロジェクトの成功により、仮想エージェントを社内の他の分野にも活用する動きが見られました。例えば、アトラシアンの人事チームでは、同じ仮想エージェントの技術を採用し、給与やビザのステータス、費用申請に関する質問に対応しています。

アトラシアンでは、毎月平均 30,000 件のチケットを仕分けしており、このボリュームは製品の負荷テストをエンタープライズレベルで適切に行える量です。

Joe は言います。「アトラシアンは規模が大きくなり、お客様と同じ課題に直面するようになりました。我々が自社のソリューションを試すことで、お客様が抱える課題も解決できるのであれば、そうしない理由はありません。」


以上、アトラシアンでの仮想エージェントによるサービスデスクの進化をご紹介しました。

Jira Service Management の仮想エージェント機能は、現在ベータ版の準備をしております。本機能が一般公開されたタイミングで、改めてブログ記事などでご案内申し上げます。

なお、Jira Service Management の Slack 連携やナレッジベース、アナリティクスといった機能をアトラシアンの IT 部門がどう活用しているかをご紹介したウェビナーをオンデマンドで公開しています。こちらもぜひご覧ください。