Team ’26 レポート :「個人のAI活用」から「チームのAI活用」へ、組織で成果を出すための3つの鍵

この記事のポイント

  • 個人がAIで時間を節約しても、チームや組織にその効果が波及しなければ「部分最適」で終わる。AIを仕事の進め方そのものに組み込んだチームは、コラボレーション効率が9倍、計画・優先付けの速度が6倍という調査結果が紹介された。
  • 組織で成果を出す鍵は 「コンテキスト」と「ワークフロー」の統合。社内に散在するナレッジをつなぐ「チームワークグラフ」が、AIの回答精度と実行力の土台になる。
  • AIエージェントは「ツールの中に住む同僚」へ進化。指示を出せば、計画を分解し、複数ツールをまたいで実行し、エラーが起きれば自己修正する ── マイクロマネジメント不要の自律的な働き手になりつつある。
  • 信頼とガバナンスが整って初めて、全社規模での展開が可能になる。誰が何を作り、どう使っているのかを可視化し、アクセス権限やデータ保護を前提に設計することが不可欠。

皆さん、こんにちは。アトラシアンの朝岡です。

今回ご紹介する 「Building AI‑native teams with Atlassian Rovo」 は、Team '26 の中でも「AIをどう使うか」ではなく、「AIを前提としたチームそのものをどう設計するか」 にフォーカスしたセッションです。

生成AIそのものは、すでに多くの企業で試されています。一方で、

  • 一部の社員が個人ツールとして使っているにとどまっている
  • 部署ごとに別々のAIを導入しており、組織としての効果が見えにくい

といった声もよく耳にします。このセッションでは、そうした「点」の活用から一歩進み、Rovoとチームワークグラフを軸に組織全体でAIネイティブな働き方へ移行するための考え方と具体例が示されました。

まずは、前提となるRovoについて簡単に触れておきます。

そもそも Rovo とは何か

Rovo を一言で言うと、アトラシアンのAI戦略の中核にある「チームのためのAIプラットフォーム」です。

ポイントは大きく3つあります。

  1. 社内のあらゆるナレッジをつなぐ
    Jira や Confluence だけでなく、Google Drive、SharePoint、Salesforce、Teams など、日々使っているツールを横断的につなぎ、「人・仕事・ナレッジ・目標」の関係性をグラフとして持つのが Teamwork Graph(チームワークグラフ) です。Rovo は、このグラフを土台にして動きます。
  2. 検索・会話・自動実行がすべて同じコンテキストで動く
    企業内検索の Rovo Search、対話型アシスタントの Rovo Chat、ノーコードでエージェントや自動化を作れる Rovo Studio。これらはバラバラのツールではなく、同じコンテキスト(Teamwork Graph)を共有する一つのプラットフォームです。
    そのため、「検索で見つける → Chatで要約・分析する → エージェントに実行させる」がシームレスにつながります。
  3. AIが「人の代わりに検索する」ではなく「チームで仕事を進める」レベルまで踏み込む
    Rovo は単なる「賢い検索」や「チャットボット」ではなく、インシデント対応、ローンチ準備、オンボーディングなど、実際のワークフローの中に入り込んでタスクをこなすAIエージェントを前提に設計されています。

これが、アトラシアンが「AIネイティブなチーム」を語るときの土台になっています。

このセッションでは、そのRovoを使って「個人のAI活用」から「チームとしてAIネイティブになる」まで、どう橋渡しするかがテーマになっていました。


個人の時短は、なぜ組織の成果につながらないのか

冒頭、ディヴィア・クマールが示した数字が印象的でした。先月だけで、Rovoを通じて実行されたアクションは1,400万回以上。一人ひとりのユーザーは、1時間、30分といった単位で確実に時間を取り戻しています。

一方で、こうも指摘していました。「その時間の節約が、チームや会社全体の成果に結びついていないケースが多い」と。

日本でも「各自がChatGPTで資料を要約している」「一部の部署だけCopilotを使い始めている」という話はよく聞きますが、組織全体としての生産性向上が見えにくい、という声も同時に耳にします。

アトラシアンの最新調査によると、AIを「仕事の進め方そのもの」に組み込んだチームは、そうでないチームと比べて:

  • コラボレーション効率が9倍
  • 計画・優先付けの速度が6倍

になっているそうです。個人利用と組織利用の間には、明確なギャップがある。そのギャップをどう埋めるかが、このセッション全体のテーマでした。


「コンテキスト」×「ワークフロー」── 複利効果を生む2つの要素

では、個人の時短を組織の成果に変えるには、何が必要なのか。ディヴィアとジャミール・ワリアニが繰り返し強調していたのは、「コンテキスト」と「ワークフロー」を一体で捉えることでした。

1)コンテキスト── 「その人」にとっての全体像

組織のナレッジは、Jira、Confluence、Google Drive、SharePoint、Salesforce、Teams、Slack など、多数のツールに分散しています。Rovoがその背後で使っているのが、アトラシアンが「チームワークグラフ(Teamwork Graph)」と呼ぶ仕組みです。「人」「仕事」「知識」「ゴール」の関係性をグラフ構造で持ち、そこに各ツールのデータを結び付けていきます。

Titanという社内プロジェクトを題材にしたデモがわかりやすい例でした。

  • プロダクト側の責任者であるジャミールが「Titan の最新状況は?」と聞くと、Jiraのブロッカーとなっているバグ、GitHubの最新PR、技術目線の進捗状況が一目でわかるビューが返ってきます。
  • 同じ質問を、Go-to-Marketを担当するディヴィアがモバイルから投げると、キャンペーンのパフォーマンス、ローンチ準備状況、主要なステークホルダー向けのアップデートが中心のビューが返ってきます。

双方とも、同じ「現実」を見ています。たとえばジャミールがブロッカーとして挙げたタスクは、ディヴィアのビューにもきちんと反映されています。ただし、役割に応じて見え方が自動的に変わる。これが、単一のダッシュボードを全員で共有する形とは大きく異なる点です。

2) ワークフロー── 「読む」だけでなく「動かす」

もう一つの要素がワークフローです。AIが単に情報を返すだけでなく、インシデント対応や会社計画の共有、プロダクトローンチのオーケストレーションといった、一連の業務プロセスそのものを担うようになると、そこから新しい判断やナレッジが生まれ、それが再びチームワークグラフに戻っていきます。

ディヴィアはこれを「複利効果(compounding effect)」と表現していました。AIが関与するたびに、コンテキストが少しずつ豊かになり、次の判断がさらに速く・正確になる。1回ごとの改善は小さくても、積み上がると大きな差になる、という考え方です。


数字から見える「つながり」の重要性

少し踏み込んだ数字の話になりますが、押さえておきたいポイントがあります。

  • コネクタ数は現在50以上(Google Drive、SharePoint、Dropbox、Salesforce、Teams、GitHubなど)
  • データ取り込みの速度は、半年前と比べて40倍
  • 新しい更新の反映はほぼリアルタイム
  • 検索のレスポンスは6ヶ月前と比べて約60%高速化
  • 複雑なクエリへの回答精度は約50%向上

どの生成AIモデルを採用するか、という議論はどうしても目立ちますが、組織での活用においては「どれだけ早く・深く、自社のデータとつながるか」という点が、同じくらい重要な勝負所になってきていると感じます。


「Max Mode」── AIが自律的に問題を分解し、実行する

このセッションで最も会場の空気が変わったのが、新機能 「Max Mode」 のデモでした。

ジャミールがAIに投げかけたリクエストは、かなり盛りだくさんです。要約すると、次のようなものです。

Titanプロジェクトの取締役会向けレポートを作ってほしい。Salesforceの商談、Jiraのサポートチケット、Google Driveのリスク資料、Teamsの顧客通話を横断的に分析し、

  • スプリントベロシティからローンチに間に合うか予測し、
  • リスクヒートマップを作成し、Confluenceレポートにまとめ、
  • 取締役会向けのインタラクティブなWebアプリとして可視化し、
  • 直属の部下にメールし、
  • 必要なフォローアップのJiraチケットを起票し、
  • 関係者とのミーティングもセットしてほしい。

これに対してMax Modeが行うのは、単なる要約や集計ではありません。

  1. 曖昧な点があれば、まず確認する
    どのConfluenceスペースに置くか、どのJiraプロジェクトでチケットを作るか、といった前提条件を、チャットで確認してきます。
  2. 包括的な実行計画を自ら立てる
    一連の要求を分解し、どのシステムから何を取得し、どの順番で処理し、どのツールで可視化するかのプランを生成し、人間側がレビューできる形で提示します。
  3. 安全な環境でコードを書き、実行する
    Atlassianのクラウド上に専用の実行環境を用意し、必要に応じてコードを書いて実行し、GitHubやJira、Salesforce、Teamsなどを横断して処理を進めていきます。
  4. エラーが出ても止まらない
    実行中にエラーが起きればログを読み、自分で修正を試みて再実行します。必要があれば再度質問してきますが、そのやり取りもデスクトップだけでなくモバイル側にも届くようになっています。
  5. 必要なツールを自ら探し、場合によっては作る
    足りない機能があれば、既存のツールを探して組み込み、それでも足りなければ自分でツールをコードで作る、という動きも想定されています。

その結果として生成されたのは、取締役向けのサマリー、クリティカルなブロッカーとハイリスク要因、予算消化率、ローンチ確率、顧客影響度、スプリントベロシティのトレンドなどを一元的に可視化するインタラクティブなダッシュボードでした。62の情報ソースを横断し、数分でここまで作り込まれているのは、なかなかのインパクトです。

ここで重要なのは、Max Modeが「良いレポートを書くAI」ではなく、「仕事そのものを進めるAI」に近づきつつある、という点だと思います。


現場が自分でAIシステムを組める時代へ ── Rovo Studio

もうひとつ大きな変化は、現場のメンバー自身がAIシステムを組み立てられるようになってきたことです。その具体的なかたちが、今回発表された Rovo Studio の進化です。

セッションでは「新メンバーのオンボーディング」を題材に、次のような流れが示されました。

  1. マネージャーが自然言語で指示を書く
    例:「新しくチームに入ってきたメンバー向けに、パーソナライズされたオンボーディングプランを作成し、1on1の予定をセットし、質問に答え、進捗をトラッキングできるようにしてほしい」
  2. Studioが「システム全体の設計案」を出す
    • オンボーディング用のエージェント
    • それを起動するための自動化(オンボーディングチケットのステータスをトリガーにするなど)
    • 進捗を可視化するノーコードのダッシュボードアプリ
  3. 必要なツールを自動でつなぐ
    Google WorkspaceやTeamsといった基本的なツールに加え、たとえばCanvaをつないで「ウェルカム画像」まで自動生成することもできます。
  4. 現場がその場で修正しながら完成させる
    条件分岐を追加したり、別のチームにも展開できるように調整したり、といったカスタマイズも、コードを書かずに行えます。

結果として、新しく入ってきた人には:

  • パーソナライズされた90日プラン
  • 質問にいつでも答えてくれるオンボーディング用エージェント
  • ウェルカムメッセージとビジュアル

が自動で届き、マネージャー側にはJira上に進捗ダッシュボードが用意されます。

ここでポイントになるのは、「どの種類のチームを想定しているか」を一度も明示していないことです。エンジニアリングチームにも、マーケティングチームにも、コーポレート部門にも同じ発想がそのまま使えます。現場が自分たちの業務に合わせてAIワークフローを組めるかどうかは、今後の組織変革の大きな分かれ目になりそうです。


ガバナンスと信頼 ── 全社展開の前提条件

AIエージェントが「ツールの中に住む同僚」のような存在になってくると、次に気になるのはガバナンスと信頼の話です。

セッション終盤では、メルセデス・ベンツの事例に続いて、次のような管理・制御の仕組みが紹介されました。

  • 誰がエージェントを作れるか、誰が使えるかをきめ細かく制御できる
  • エージェントは、利用者自身が持つ権限の範囲内でしか動けない
  • Admin Hubで、組織内の全エージェントを一覧・監査できる(シャドーAIの抑止)
  • 利用頻度や採用状況を可視化し、どこに投資し、どこをやめるかの判断材料にできる
  • その上に、データレジデンシーや各種認証、カスタマーマネージドキー、IP制限などの基盤機能がある

ディヴィアは「信頼がなければ全社展開は起きない。全社が信頼できるからこそ、全員が使うようになる」と述べていました。実際、Enterprise Plusのお客様の90%以上がRovoを有効化しているという数字も、こうした前提があってこそだと思います。


おわりに ── 「1+1=3」の組織をどう作るか

このセッションを通じて感じたのは、AIの組織活用が次のフェーズに入りつつあるということです。

  • 個人がAIで時間を節約する段階から、
  • 組織としてコンテキストを整え、
  • ワークフローの中にAIを組み込み、
  • そこで生まれたナレッジが再びコンテキストを豊かにする

というループが、少しずつ現実味を帯びてきています。

多くの組織に共通しているのは、まず 「社内に散らばった情報をどうつなぐか」 という問いに向き合う必要がある、という点です。そこから、どの業務をAIエージェントに任せていくのか、どこまで現場にビルドの権限を渡すのか、ガバナンスをどう設計するのか──そうした意思決定が続いていきます。

かつて「生産性」とは、同じ時間でより多くのアウトプットを出すことでした。

AIがチームに加わる時代、その定義は静かに変わり始めています。より多く出すことではなく、より良い問いに時間を使えること。より良い判断に集中できること。より意味のある仕事に向き合えること。

1+1が3になるのは、AIが人間の仕事を奪うからではなく、人間が本来やりたかった仕事に戻れるからなのかもしれません。

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