正しいものを構築する方法(そして間違ったものを構築しないようにする)

アトラシアンの製品とプロセスを用いた、成功するためのプロダクト構築のアプローチを明らかにします。

グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポートによると、スタートアップ企業の90%以上が完全に失敗に終わっています。

通常、これは投資家が支援を打ち切るためだと考えられます。しかし、CB Insightsのレポート『スタートアップが失敗する20の理由』によると、その原因は29%に過ぎず、スタートアップの失敗の理由の42%は市場ニーズの欠如が原因となっています。

つまり、小規模なスタートアップにとって最大の課題は、資金不足ではなく、誰も必要としないプロダクトを作り続けることなのです。プロダクトマネジメントの模範とされる、資金力があり革新的な企業でさえ目標を達成できない場合があります。

では、正しいプロダクトを作るにはどうすればよいのでしょうか?

このブログでは、アトラシアンが自社の製品とプロセスを用いて、成功するプロダクトの構築に絶えず取り組んでいる様子を紹介し、よくある落とし穴を回避しながら、最高のアイデアを実現するためのインスピレーションと力を提供します。

 

明確なビジネス目標を策定する

趣味や情熱のための発明と、企業のためのプロダクト開発との大きな違いは、その根底にある動機にあります。企業のためのプロダクトを制作する場合、その主な目標はビジネスの成功です。プロダクトリーダー、エンジニア、デザイナーは、ビジネスを成長させるためにプロダクトを構築しています。

アトラシアンでは、Jira の「ゴール」機能を利用しています。この機能により、リーダーは主要なビジネスゴールを、管理しやすいサブゴールに分割することができます。

サブゴールとしては、収益目標、信頼性目標、使用状況目標などが挙げられます。その後、当社のプロダクト組織は、これらのビジネス目標をそれぞれのプロダクト戦略に分割します。

プロダクト戦略は、現在の状況から目標に到達するために達成すべき事項のガイドと考えてください。この評価は 6 ヶ月から 9 ヶ月ごとに更新され、お客様のフィードバックも反映されます。

その後、当社のプロダクト組織は、これらの戦略を「賭け (Bet)」に分解します。賭けとは、全体的な目標と直接連携し、より具体的な指針となる実行可能な決定事項のことです。

 

お客様の声に耳を傾ける

アトラシアンでは、お客様のフィードバックがプロダクトチームの生命線だと考えています。アトラシアンのプロダクトグループは、お客様と直接対話して現実的なソリューションを考案することからプロダクト開発を始めています。お客様には、次のような質問をします。

  • なぜその仕事をしているのですか?

  • お客様の日常業務を改善するために、弊社はどのようなお手伝いができるでしょうか?

これにより(必ず成功するとは限りませんが)、お客様のニーズを満たすプロダクトを開発するためのより良い道筋を立てることができます。

 

お客様のフィードバックを受け入れる

明確で実用的なフィードバックを受け取ることは、軽視すべきではないプロセスです。提案箱に匿名でメモを入れるだけでは不十分です。

お客様のフィードバックを読むことで、お客様が実際にプロダクトをどのように使用しているかを深く理解することができます。これにより、お客様やチームではこれまで想像もできなかったユースケースを発見することができるでしょう。

アトラシアンのプロダクトチームは、Jira Product Discovery、Slack、Jira Service Management を使用して複数のフィードバックチャネルを開き、可能な限り包括的な回答を得ています。これにより、お客様が当社のプロダクトをどのように使用しているかを常に把握することができます。

Jira Product Discovery では、お客様は「ご意見をお聞かせください」というポップアップ機能を使って、フィードバックを簡単に定期的に共有することができ、そのフィードバックはプロダクトチームに直接届きます。Slack では、アトラシアンのお客様担当者が、営業、サポート、マーケティングなどのユーザーからの質問や懸念にいつでも対応しています。

そして、この情報をすべて Jira Service Management に一元化します。

Jira Product Discovery の「ご意見をお聞かせください」機能

 

Slackのフィードバックチャネルの例

 

Jira Service Management のフィードバックリポジトリの例

 

毎週、プロダクトマネージャーの 1 人が、寄せられたフィードバックをすべて読みます。Jira Service Management を通じてお客様にフォローアップを行い、追加の情報も提供することができます。お客様が混乱した点、障害となった点、うまく機能しなかった点などを把握し、新機能の開発に反映することができます。

より深い問題解決や、非常に特殊なユースケースの文書化については、プロダクトマネージャーが Zoom 会議を設定し、お客様のニーズの本質を見極めます。適切なお客様に対してこのアプローチを採用すると、大きなメリットがあります。

 

フィードバックをじっくりと熟成させる

プロダクトの構築やクリエイティブなプロセスにおいて、時間は非常に重要です。しかし、フィードバックをじっくりと熟考し、新鮮な心で再検討することも重要です。
弱火でゆっくりと時間をかけて料理をするように、フィードバックを吸収するプロセスも同様です。1日目にはひとつのことが見え、10日目には別のことが見えるかもしれません。

 

ヒント

お客様からのフィードバックはすべて同じ価値があるわけではありません。正しいものを構築するために必要な最高の価値を提供してくれるのは、次のような特定の特性を持つお客様だけです。

  • 明確なコミュニケーション能力
  • ターゲットセグメントに属している
  • 当社が解決しようとしている問題について強い不満を抱いている
  • この不満を解決するための新しい方法を模索している
  • 競合他社製品を使用していない
  • 手元の課題を解決するために、働き方を変えることに前向きである
  • プロダクトの開発初期段階から積極的に使用し、フィードバックや、発見した問題や解決策を喜んで共有してくれる

 

 

具体化し、優先順位をつける

お客様のご要望を聞き、その証拠をアイデアに結びつけます。次に、提供内容を具体化し、優先順位をつけるプロセスに進みます。アトラシアンでは、以下のプロセスを用いて、情報を収集、優先順位付け、ロードマップを作成しています。

 

 

収集

まず、論理的であろうと、非常にクリエイティブであろうと、プロダクトを実現するためのアイデアをすべてリストアップします。この段階では、間違った答えはありません。アトラシアンでは、非同期のリアルタイムコラボレーションが可能な Confluence のホワイトボードを、この作業に使用しています。準備ができたら、付箋を Jira Product Discovery プロジェクトまたは Confluence ページに転送します。

 
Confluenceのホワイトボードを使ったブレインストーミング

 

 

優先順位を付ける

ロングリストから実現不可能、実行不能、または単に非現実的なアイデアを削除し、リストを絞り込む段階です。この新しいリストが「ミディアムリスト」となり、ここで優先順位を付け、チームと議論してどこから始めるかを決定します。会社の状況に応じて、その時点で最適化すべきポイントを明確にする必要があります。

アトラシアンでは、Jira Product Discovery を使用してミディアムリストをフィルタリングし、その結果を最初のビジネス目標とその賭けと関連付けます。Jira Product Discovery では、アイデアをセグメントごとにグループ化し、洞察と相互参照して、取り組んでいるセグメントに対する顧客の需要の影響を評価することができます。

Jira Product Discovery を使用し、お客様対応チームとの明確なコミュニケーションを維持することで、アイデアをフィルタリング、ランク付け、絞り込み、中程度と影響度の高いアイデアを区別しやすくなります。プロダクトマネージャーは、プロダクトの成約だけでなく、お客様対応チームと継続的に連携し、パートナーシップを維持して、彼らの率直なフィードバックを常に把握しておくことが重要です。

Jira Product Discovery で中程度のリストを整理する

 

アトラシアンでは、Jira Product Discovery を使用して、営業担当者とエンジニアにそれぞれ特定のプロジェクトビューを用意しています。これにより、各担当者が意見を述べることができ、アイデアが別々にリスト化されるため、ビューが雑然となることがありません。さらに重要なことは、Jira Product Discovery の投票機能を使用してアイデアを管理できることです。

営業担当者向けの Jira Product Discovery ビューの例

 

これにより、エンジニアリングなどのチームは、実行段階になって初めて関与するのではなく、最初からプロジェクトに関与し続けることができます。早い段階でエンジニアと実現可能性を評価することで、適切なものを確実に構築することができます。

エンジニア向けの Jira Product Discovery ビューの例
 

 

インパクトと労力を比較検討する

ここで、優先順位付けに関する最も難しい議論が始まります。この議論によって、最終的に正しいものを構築できるかどうかが決まります。

アトラシアンでは、この問題に対処するために、「インパクト対労力」というビューを用意しています。これは、X 軸に「インパクト」Y 軸に「労力」をプロットしたマトリックスです。

 
 

これにより、インパクトが高く労力の低いアイデアはマトリックスの右上部に位置します。これらのアイデアは「考えるまでもないこと (no-brainer)」や「簡単にできること (low-hanging fruits)」と呼ばれ、最優先で取り組むべきものです。

マトリックスの右下には、インパクトが高く労力も高いアイデアが位置し、私たちはこれを「フォースマルチプライヤー (force multiplier : 限られた資源でより大きな効果や影響を生み出すもの) 」と呼んでいます。これらの機能やアイデアはビジネスに大きな影響を与える可能性がありますが、実現は困難です。

しかし、影響度が中程度の取り組みを過小評価してはなりません。これらの取り組みを達成することで、使いやすさが向上し、お客様との関係も改善されます。アトラシアンでは、これらの取り組みを「喜び」と呼んでいます。これらは、ビジネスの様相を一変させるようなものではありませんが、何か特別な魅力をもたらすものです。

もちろん、影響の低いアイデアは避けるべきですが、中程度の影響力を持つアイデアと大きな影響力を持つアイデアのバランスを取ることが成功の鍵となります。アトラシアンでは、チームの帯域幅を無駄に消費することなく、お客様のニーズに一貫して対応できるよう、達成が容易で戦略的な中程度の影響力を持つアイデアを四半期ごとに確認し、対応しています。

 

ロードマップ:ストーリーを伝える

次の四半期に扱うアイデアを特定したら、次はロードマップでストーリーを伝えます。アトラシアンでは、プロダクトチームごとに Jira Product Discovery で異なるロードマップレイアウトを使用していますが、ここでは例として、以下の 3×3 グリッドを見てみましょう。

Jira Product Discovery におけるアトラシアンのロードマップの例

 

このシナリオでは、この時点で、達成しようとしているビジネス目標と、グループで策定したプロダクト戦略に基づいて、これが今投資すべき正しいことであると確信しているため、このような簡略化された列を使用しています。

アトラシアンでは、ロードマップに確信が持てたら、Loom を録画して、上級管理職と協力し、賛同を得ます。アトラシアンはグローバル企業であるため、コラボレーションを迅速に進めるには非同期のコミュニケーションが鍵となりますが、Loom はこれを完璧に実現しています。

Loom を使用した提案のウォークスルーの例

 

Loom でプレゼンテーションを録画する際には、視聴者がロードマップを確認しながら、ビデオ形式でウォークスルーを行います。Loom では、ビデオの特定の時点にコメントを投稿して、明確で配慮のある回答を行うこともできます。回答が簡単なコメントの場合は Loom 内で直接回答しますが、より深いコミュニケーションが必要な場合は、プロダクトマネージャーが経営陣との Zoom 会議を設定します。

 

プロダクトの構築

それでは、正しいものを構築する作業に取り掛かりましょう。アトラシアンでは、ロードマップのアイデアごとに、プロダクト要求文書 (PRD: Product Requirement Document)、(ワンページャーや仕様書とも呼ばれます) を作成しています。

プロダクト要求文書の例
 

 

これらの PRD はプロダクトマネージャーが作成し、ビジョン、機能、および範囲について明確かつ詳細に記述しています。特定の機能の詳細な動作は Figma で説明します。

 

PRD の目的は以下のとおりです。

  • 全員に共通認識を持たせる – プロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナー、および利害関係者をはじめとするすべての関係者に、構築する内容とその理由について共通認識を持たせます。この明確さが欠けていると、チームはビジネスやユーザーのニーズを満たさない機能を構築してしまうおそれがあります。

  • スコープの拡大を防止する – 構築すべきものの境界を定め、その結果として、構築すべきでないものを明確にします。

  • チームの効率を向上させる – 文書化された要求により誤解を最小限に抑え、再作業の必要性を減らし、タスクの確認のための会議の必要性を削減することで、チーム効率を向上させます。

 

アイデアを整理整頓する

PRDを作成しロードマップに追加すると、次に何が起こるか、後で完了する必要のあるタスク、完了しないタスクを可視化できます。

また、改善をリクエストしたすべての人の記録を残すことで、進捗を共有し、フィードバックを収集できます。ポジティブな反応がない場合や反応がない場合、戦略を見直し、再検討することができます。

ボードビューのロードマップ例
 

これは、チームに高レベルながら実行可能な作業の全体像を提供し、PRDをConfluenceページに埋め込んだり、Figmaとリンクしたり、Slackチャネルにブックマークしたりできます。

 

エンジニアリングの開始

明確な計画とロードマップが策定されたら、次はコードの記述を開始します。

以下の例では、当社のプロダクトの設定に困難を感じている管理者であるお客様からのフィードバックに基づいて、大規模なユーザー管理機能を実装する必要があるというシナリオを取り上げます。

この場合、エンジニアリングチームは、達成すべきすべての作業をリストアップするために、エピック、タスク、ストーリーからなるデリバリーバックログを作成しました。その後、Jira Product Discovery 側の対応するアイデアにリンクすることで、エンジニアにステータスの更新を頻繁に要求して彼らの注意をそらすことなく、関係者にすべての情報を完全に公開することができます。

 

エンジニアは、自身の行動が全体目標に与える影響を完全に把握できるため、プロセスへの参画意識が高まります。

ステータス更新付きのロードマップの例
 

このシナリオでは、リリース済みと開発中のタスクのリアルタイムなステータス更新を追跡できます。ビューの右側にあるアクションは現在詳細が未定ですが、それらを破棄せずに可視化したままにしています。

この場合、プロダクトチームは毎週ミーティングを行い、デモを行います。そして、プロダクトチーム自身が、お客様よりも先にプロダクトや機能を最初にベータテストします。これにより、プロダクトが一般公開の準備ができていることを確認し、検証することができます。期待に満たない場合は、Figma に戻って再検討を行います。

 

ループを閉じる

アトラシアンのプロダクト組織が取り組んでいる非常に重要な活動の 1 つは、「ループを閉じる」ことです。設計が承認され、エンジニアリング部門がコードを記述した後、プロダクトはまず少数の顧客にリリースされ、その後徐々に機能が拡張されます。

 

リリースに関するコミュニケーション

これらのプロジェクトの発端となった最初のフィードバックを提供したお客様には、リリースが最初に通知され、早期にアクセスすることができます。Loom を録画して、新製品や新機能の詳しい概要をわかりやすく紹介し、お客様が早く使い始めることができるようにしています。

この早期アクセスと、培ってきたコミュニケーションチャネルにより、プロダクトを使用しながら最初の問題やアイデアを私たちに伝えてくださったお客様から、より透明性の高いフィードバックを得ることができます。

提供範囲を拡大するにつれて、Loom の録画をコミュニティフォーラムで共有してお客様にご案内したり、チームチャネルで共有してアトラシアンの全社員に最新のプロダクトの使い方やその活用方法を学んでもらいます。

Loom を使用した外部デモの例
 

 

Loom を使用することで、ユーザーや潜在的なお客様に、アップグレードに関する最新情報を、短い録画で迅速に提供することができます。

現在では、誤った製品開発を防ぐため、受け取ったフィードバックを現実的に検討しています。機能やアイデアが完全に的外れであると思われる場合は、その開発に固執することはありません。

 

目標に関するコミュニケーション

機能の開発が進むにつれ、「ゴール」機能を使用して利害関係者に進行状況を共有します。これには、対応する目標にリンクしたステータス更新を書き、最もリクエストの多い機能アイデアに取り組んだことを透明性を持って伝え、そのトピックに関するサポートチケットがゼロであることを目指しています。

目標のステータス更新の例
 

 

このように広くコミュニケーションを行うことで、上級幹部にステータスを共有し、プロダクト組織が行っている作業について熱意を醸成することができます。プロダクトの構築はマラソンのようなもので、このコミュニケーションのスタイルは、その道中で飲む水分補給のようなものです。

 

まとめ


 

正しいものを構築するには、プロダクトの発見、開発、デリバリーを導く、適切なツールと連動した明確なプロセスが必要です。アトラシアンは、自社製品スイート全体を駆使して、お客様にとって最も有用なプロダクトの構築に全力を尽くしています。

  • フィードバックの収集には Jira Service Management

  • 問題のより深い探求と PRD によるアイデアの明確化には Confluence

  • ロードマップの構築に必要な洞察やプロダクトのアイデアの追跡には Jira Product Discovery

  • Jira Product Discovery のロードマップに関連するエンジニアリング作業を追跡するための Jira

  • お客様、チームメンバー、および関係者と非同期でコミュニケーションするための Loom


とはいえ、プロセスとツールだけでは不十分です。プロダクト開発では、予期せぬ課題に直面したり、新しいデータが明らかになったりします。本当に正しいものを構築するには、チームは変化を失敗ではなく、成功への必要なステップとして受け入れる文化を育む必要があります。

 

この文化の一部は、計画したものが必ずしも正しい答えではないことを受け入れ、それが問題ないことを理解することです。証拠が間違った方向に進んでいることを示した瞬間、私たちはピボット(方向転換)し反復します。これが発見の魔法が生まれる瞬間です。

 

正しいものを構築するには、反復する勇気、証拠に耳を傾けること、そして前進するたびに真の価値を提供するためのステップであることを確認することが必要です。


Jira Product Discoveryは無料で3人までご利用いただくことが可能です(Free Plan)。

Free Planを含む、Jira Product Discoveryの価格についてはこちらをご覧ください。また、Free Planへのお申し込みもこちらから行っていただけます。