第82回 ACE Tokyo Meetup イベントレポート

みなさん、こんにちは。アトラシアンでコミュニティマーケティングを担当している新村です。今回は9月3日にリックソフトさんに会場をお借りして開催された第82回 ACE Tokyo Meetupの様子をレポートしたいと思います。ACE Tokyoはアトラシアンの公式コミュニティで、アトラシアンに関心を持つみなさんの交流の場として多くの参加者にお集まりいただいています。東京を中心に活動していますが、今後はオンライン、オフラインを交えつつ、多くの方にご参加いただける形を作っていきたいと思っています。

今回はAdmin分科会の主催で「Jira Service Management導入初期、導入後拡大事例」というテーマでパナソニック コネクトの相原さんとLIXILのTomさんにお話いただきました。相原さんからはJira Service ManagementとRovoエージェントを活用した統合サービスデスクへの挑戦について、TomさんからはAIエージェントを活かすために欠かせない「ナレッジ基盤」をテーマにグローバルJSM運用から得た実践知を紹介いただきました。

それでは早速、当日のセッション内容をご紹介します。


問い合わせ窓口を探させない世界へ ~Rovoエージェントによる統合サービスデスクへの挑戦~

パナソニック コネクト 相原さん

パナソニック コネクトでDevSecOpsツールの導入・運用・活用推進を担う相原さんは、「問い合わせ窓口を探させない世界へ」をテーマに、Jira Service Management(JSM)とRovoエージェントを活用した統合サービスデスクへの挑戦を紹介しました。

少人数運用を支えた、JSMによる標準化と自動化

相原さんの所属するクラウドエンジニアリングセンターでは、約7,000人が利用するDevSecOps環境を少人数で支えています。導入初期はライセンス管理、設定変更依頼、費用請求、問い合わせ対応を手作業で行っていましたが、利用拡大に伴いITSM基盤の構築が急務となりました。既存のJira・Confluenceとの親和性、コスト、立ち上げやすさを踏まえてJSMを選択しました。

JSM導入後は、問い合わせ窓口の集約、セルフサービスの促進、申請・ライセンス費用請求の自動化を進めました。年間約8,500件のライセンス申請と、約300部門への請求処理を自動化し、地道な手動対応の分析と試行を重ねて自動化率は94%に到達しています。利用状況をダッシュボードで振り返り、ナレッジの作成数・閲覧数・問い合わせ数などをKPIとして可視化。自動化率をKRに置くOKRも活用し、単にチケット数を追うのではなく、より少ない負荷で利用者に価値を届ける運用へと進化させています。

分散した窓口を、利用者起点で再設計する

一方で、組織・顧客タイプごとに分かれた複数のJSMサイトに加え、フォーム、メール、チャット、個別に構築された問い合わせシステムが共存していました。その結果、利用者は問い合わせ先を探さなければならず、運用コストや利用体験、ナレッジ蓄積も分散してしまいます。

そこで相原さんが描くのは、利用者にとっての入口を一つにし、Rovoエージェントが横断的に回答・案内する姿です。すべてを一度に統合するのではなく、まず自チームの単一プロジェクトで、ナレッジ整備、Rovoエージェントの構築、JSM連携、効果測定を検証。その成功体験をもとに複数プロジェクト、さらに全体へと広げる段階的なアプローチを採っています。

AI活用の鍵は、信頼できるナレッジと確実な引き継ぎ

実証では、Rovo Chatによる回答やJSMチケット作成を試しながら、回答精度、担当者の割り当て、ナレッジ不足といった課題にも向き合っています。特に、回答できない場合でも正しい窓口へ確実につなぐこと、複数のナレッジを横断する際に誤った回答を抑えることが重要です。相原さんは、エージェントの役割を分けてシンプルに設計し、担当者の割り当てはJSMのオートメーションに委ねるなど、運用可能な形を模索していると語りました。

「ここに来れば何でも分かる」という体験は、AIだけで実現するものではありません。ナレッジを作りやすくし、継続的に育て、回答できない時にも迷わせず適切な窓口へ導く——相原さんのセッションは、統合サービスデスクを目指す上での実践的な道筋を示す内容でした。


エージェントを活かすためのナレッジ基盤づくり ― グローバルJSM運用から学んだこと ―

LIXIL Tomさん

LIXILでグローバルなエンタープライズサービスマネジメント基盤の運用・ガバナンス・分析を担うTom Staffordさんは、AIエージェントを活かすために欠かせない「ナレッジ基盤」をテーマに、グローバルJSM運用から得た実践知を紹介しました。

規模の拡大に伴い、課題は「導入」から「運用モデル」へ

LIXILでは、全世界で145のサービスデスクを運用し、各地域のITサービスデスクをグローバルサービスデスクへ段階的に統合する「LIXIL Help」に取り組んでいます。年間リクエスト数は導入初年度の約8,900件から3年目には約48,400件へと拡大しました。

こうした成長によって、単にサービスデスクを立ち上げ、リクエストタイプや自動化を作るだけでは不十分になったとTomさんは説明します。ナレッジ不足、分類の曖昧さ、引き継ぎの属人化といった課題が顕在化し、問われるのは「ツールを導入できるか」から「多地域でも再現性高く運用を続けられるか」へと変化したと語ります。

AIエージェントを支える、4層のナレッジ基盤

Tomさんは、ナレッジ基盤を単なる記事の集合ではなく、サービス運用を支える仕組みとして整理しました。その構成は、サービスとリクエストタイプ、所有者を明確にするサービス構造、正確な記事・テンプレート・レビューサイクルから成る信頼できるナレッジ、分類体系と一貫したカテゴリー、分析を担う活用できるデータ、そして貢献・学習・セルフサービスの定着を促す運用行動の4層です。

同社には約1,500ページのナレッジがあり、複数チームが専門領域ごとに貢献しています。一方、量だけでは十分ではありません。責任の所在、構造、継続的な見直しを整えることで、ナレッジを組織全体で育てる運用資産にしていくことが重要だと強調しました。

標準化・データ品質・利用習慣を、継続的に育てる

グローバル運用における標準化は、「すべてを同じにする」ことではありません。サービス定義、所有者モデル、レビュー基準、主要な分類体系、記事構造は共通化しつつ、言語や地域固有のサポート内容、ローカル手順、解決グループの実装詳細には柔軟性を持たせます。Tomさんはこれを「統制ではなく、再利用のための設計」と表現しました。

また、データ品質はレポートのためだけのものではありません。LIXIL Helpでは、リクエストの61%が「一般リクエスト」に分類されており、分類が粗いままでは意思決定に必要な分析精度が下がるだけでなく、適切なルーティングや自動化の条件も弱くなります。AIを安全かつ効果的に活用するためにも、テンプレート、ライフサイクル管理、検証済み検索によって、信頼できる引き継ぎ構造を整える必要があります。

最後にTomさんは、まず一つの重要サービスで記事と分類の最小標準を定め、ナレッジのカバレッジ・利用頻度・検索ヒット率などを測定し、次の対象へ広げていくサイクルを提案しました。信頼できるエージェントは、信頼できるナレッジから始まる——「構造・責任・改善」を継続することが、AI時代のサービスマネジメントの土台になるという、実践的なメッセージが共有されました。


Live Q&A

お二人のセッション後にはLive Q&Aも実施されました。たくさんの質問をいただきましたが、お時間の関係で限られた質問にしか回答できませんでした。

Q&Aでは、JSM運用を拡大する際の実践的な課題と工夫が語られました。チーム管理・会社管理プロジェクトの使い分け、初期KPIはまず現状把握から始めて段階的に目標化する方法、ナレッジを通常業務に定着させるための目的共有と継続的な働きかけが紹介されました。さらに、古いナレッジの扱い、チケット管理による業務の可視化、統合データを活用した改善点の発見など、AI活用の土台となる標準化・構造化の重要性が議論されました。

残りの質問に関しては別の形で回答する企画を考えているとのことでしたので、質問された方もそうでない方もそちらの企画を楽しみにお待ちください。


懇親会

懇親会開始の乾杯のご挨拶は今回会場とFood & Drinkを提供いただいたリックソフトの大貫社長でした。今回も懇親会では参加者のみなさんが活発に議論されていて、他社の苦労話や工夫を共有する良い場として機能していました。こういった情報の共有やネットワーキングはコミュニティに参加する最大のメリットですね。

最後にいつもの集合写真で締めたいと思います。


懇親会開始の乾杯のご挨拶は今回会場とFood & Drinkを提供いただいたリックソフトの大貫社長でした。今回も懇親会では参加者のみなさんが活発に議論されていて、他社の苦労話や工夫を共有する良い場として機能していました。こういった情報の共有やネットワーキングはコミュニティに参加する最大のメリットですね。

最後にいつもの集合写真で締めたいと思います。