星野リゾート・星野佳路さんのアジャイル経営がアトラシアンの考え方そのままだと気づいた話

皆さん、こんにちは!先日、弊社はアジャイル経営カンファレンス(2023年1月27日開催)にスポンサーさせていただきました。スポンサー枠で、業務の合間に基調講演を視聴していてとても面白い気づきを得たので、ここではその内容をアトラシアンの視点で簡単にまとめてみたいと思います。

アジャイル経営を改めて定義

まず、個人的に実は今まで明確になってなかった「アジャイル経営」とは具体的に何を指すのか、というところから定義づけしてみたいと思います。

  1. 経営ビジョン:企業が目指す姿を掲げ、将来を見据えて外部環境の変化に適応しながら持続的に発展し続ける
  2. 組織プロセス:企業の目指す姿(ビジョン)と実行する現場がありたい姿(現場の目指すゴール)を双方向で目線を合わせて実現に向けて邁進する
  3. 組織風土:社員が自律的に学びと成長を続けながらチームパフォーマンスをあげることで社員の自己実現と組織ケイパビリティを高め続ける

うん、これだけだとやはり少し抽象度が高く、実例のようなものをイメージしにくいですよね。僕もそうでした。ですが、今回聴講できた最初の基調講演である星野リゾートの星野佳路さんのお話が非常に具体的で面白かったのです。星野リゾートさんのアジャイルやDXなどの話は色んなサイト動画で既に語られていますが、今回星野さんがお話されたのは「他社に真似されにくい独自の姿」を創り出すための3つのステップでした。(なお、今回の記事とは別に、星野佳路さんのフラットな組織論についてのインタビュー記事を弊社のオウンドメディア「チームの教科書」で少し前に掲載しております。今回の基調講演とは違う切り口でお話し頂いており、こちらも面白い読み物ですので、もしご興味あればぜひご覧くださいませ。)

1. 生産性のフロンティアを達成する

今回の3ステップは全て、経営戦略論の古典として有名な「競争の戦略」(1995/3/16、M.E. ポーター著)というビジネス書から引用された言葉になります。まずステップ1の、この「生産性のフロンティア」という言葉は一言でいうと、ビジネスの必要条件。つまり、最低限やるべきことをやってる状態の事を指すようです。言い換えるなら、スタートラインに立つことでもあり、理想としては競合他社がやってることで自分たちができていない事をしっかりやりきる、と表現されていました。

2. トレードオフを伴う独自の活動を選択する

これこそ「言うは易し」だなぁ、と感じたのですが、企業が取りうる戦略において「トレードオフを伴わない活動は真似されやすい」との事。これは本当に深刻なことで、著者のマイケル・E・ポーターいわく「良いアイディアでもすぐに模倣され、業績は単にコスト削減によってのみ決定されることになる。」と指摘しています。これを聞いてすぐに思い出したのが、2023年1月にネットニュースで話題になった「自社商品に酷似したものが某100円ショップで売られている」と物議を醸しだした話です。ここではその是非は置いておきますが、要はこのような事態が起きては戦略の見直しが迫られてしまう、という事ですよね。じゃあ、それはやらないほうが良かったのか?いやいや、生産性のフロンティアに立つためには必要な行動なのでやらないわけにはいかないワケです。ポイントは、模倣されないように「模倣したければ自社が摂っている戦略複数の要素全てを満たす必要がある」というリスクを競合他社に負わせる、という点です。それが、星野リゾートの場合は例えば「リゾートという固定資産を『所有する』ことを放棄して『運営する』ことに特化した事業の業態」などに当てはまるようです。

3. 企業活動の中で各種活動間にフィット感を生み出す

さて本題です。星野リゾートの人事の考え方では5つのキーワードがあるらしいのですが、アジャイル経営に関わるのはその中の「情報とプロセスの公開」という点でした。これを実現するためには、フラットな組織で正しい議論をする必要がある。

ただし、「フラットな組織」と言っても、組織図を平らにする、組織階層を減らせばいいというわけではない。例えば、ホテルでいうと、「総支配人は偉いわけではない」という考え方。偉いのではなくて、組織の意思決定の役割を持ってるだけである、と。それが、その人の仕事なだけ、という考え方が「フラット」という事です。意思決定まではフラットな議論をきっちり組織として行い、それに基づいてベストな意思決定をしたい。

それでは、意思決定前にどうすれば構成員が何でも言えるようにするか?そのために星野さんが強調されていたのは、「偉い人信号」をなくすことが大事、ということでした。偉い人信号なくすというのは、例えば偉い人だけ専用の執務室がある。執務デスクが違うとか、偉い人だけ肘置き付きのチェアを使っていいとか。そういうところから始まる、とのことでした。

また、フラットな組織文化についてもう一つ言っていたのは、「組織図を逆さまにしろ」という点も興味深い見かたでした。そうすることによって、社員一人ひとりの頭の中の能力を会社のためにオープンに使えるようになる。人材とは考える力が一番大事であるという考えに基づき、可能性を最大化させるための環境づくりですよね。

そしてこれらのフラットな組織化への取り組みは、皆さまもお読みいただいて感じているかも知れませんが、トップがコミットしないとフラットにならないんですよね。ただ、逆に言うと、トップがフラットに成りたいと心から思えば実行可能なんですよね。

3点目の「フラットな組織でオープンに議論する」ためには?

個人的にここが一番刺さりまくったポイントでした。まず、星野さんの考えにはこれ以上ないぐらい同意でした。フラットな組織は上層部が完全に変わるからこそ、実現できるんですよね。そして、フラットになった時、それじゃあどうやってその「オープンなコミュニケーション」「人材の可能性を最大化させるべく、何でも言えるようにするか」が次のポイントになるわけです。

まさにこれこそが、アトラシアンが創業以来掲げているミッションのポイントになるわけです。すなわち、「Unleash the potential of every team = あらゆるチームの可能性を解き放つ」という考えです。この実現のために、部門間、社員同士、経営層と現場がオープンに言いたいことを伝える基盤を提供しています。これは一言では「コラボレーション・ツール」と呼ばれており、実際に全世界に散らばるアトラシアンの社員もこの考えを基に自社内でオープンに日々コラボレーションしたり議論しています。

2002年にオーストラリアはシドニーで創業したアトラシアンのこの根っことなる考えが、まさにコロナ禍を経て更に強く成長している日本の宿泊業の雄、星野リゾートの経営の考え方とピッタリ繋がるのは非常に感慨深いものがありました。だからこそ、アジャイル経営の実行に於いてアトラシアン製品はご支援できる事がたくさんあるし、アジャイル経営カンファレンスで議論された数多くのトピックにも適合するわけなんですよね。

プロジェクト管理やWikiツールという表現で、弊社製品は日本でも長い間開発に携わる様々な職種の皆さまにご利用いただいてまいりました。例えば、Jira SoftwareConfluenceがその代表例です。これらをはじめとするアトラシアン製品を経営的な視点で改めて見てみると、「アジャイル経営を実現するためのコラボレーション支援ツール」としてもっともっと皆さまに多くの価値をご提供できる、そんな事を改めて考えさせられた素敵な基調講演でした!